ペットロス(対象喪失・喪の作業)

先日、クライエント様の愛犬が急死されました。
クライエント様は近日中に論文を仕上げなくてはならないのに、「何もやる気が起きない」とおっしゃいます。
本日はペットロスに関連して、心理学的視点からお話をしたいと思います。

何年間も共に暮らしたペットは家族の一員です。
私自身も、今年の5月末に13歳の愛犬を亡くしましたが、やはりわが子のようにとても愛しい存在だったので、今でもその喪失感は完全に拭えません。

このように、人間との別れだけでなく、ペットとの別れでも悲しんだり、苦しんだりするのはしごく自然で正常な反応なのです。
この反応を『ペットロス』といい、このストレスが契機となって発症する疾患や心身症状を『ペットロス症候群』と呼ぶことがあります。

 

精神分析では、自分の愛する他者や大切なモノを失うことを『対象喪失』(object loss)といいます。
具体的には、
・愛情や依存対象の喪失(肉親との死別や離別、失恋、子離れ、ペットの死等)
・慣れ親しんだ環境の喪失(引っ越し、転校、卒業、転勤等)
・身体の一部の喪失(手術や事故等)
・目標や自己イメージ、所有物の喪失など
あらゆる事柄が含まれます。

そして、対象喪失によって生じる悲哀や悲嘆を和らげて、安定した心理状態を取り戻していく心的過程(心理的プロセス)のことを、フロイトは『喪の作業(喪の仕事、悲哀の仕事、悲嘆の作業)』(mourning work)として提唱し、その後、ボウルビィは乳幼児研究において段階を細分化しました。

フロイトによれば、喪の作業は以下の順番どおりに起こり、省略は不可能だとされています。

1 無感覚の段階(直後から1週間ほど)
激しい衝撃に呆然とし、ショックを受けている状態

2 否認・抗議の段階
対象喪失を認めようとせず、認めさせようとする者に抗議する状態

3 絶望・失意の段階
激しい失意、不安、抑うつといった心理的反応が現れる状態
怒る人、無感動になる人、宗教にはまる人

4 離脱・再建の段階
喪失を次第に受け止め、事実と折り合いをつける状態

 

このプロセスを、愛犬を亡くしたばかりのクライエント様に当てはめてみますと、「何もやる気が起きない」という状態は、まさに、喪の作業の最初の段階となる『無感覚の段階』にあると言えます。
『激しい衝撃に呆然とし、ショックを受けている状態』だからこそ、何も手につかなくなってしまったわけです。

通常、喪の作業は、自然な時間の経過と周囲からの励ましによって進んでいきます。
したがって、悲しみを我慢したり、辛い気持ちをそらしたりするよりも、立ち直るためには、きちんと傷つくことが必要になります。
時間はかかりますが、悲しむときに悲しみ、怒る時に怒れば、少しずつ立ち直っていけます。

しかし、この作業が進まない、あるいは途中で失敗してしまうと、長期にわたって慢性的な悲哀感や抑うつ感、不安感が続くことになり、非社会的(反社会的)な行動障害、不安障害、うつ病、パニック障害などの精神疾患におちいってしまうことがあります。

もし、辛い状態が続いているようでしたら、薬物療法や心理療法が必要となってきますので、絶対に、一人で我慢せずに早めに精神科医や臨床心理士に相談してくださいね。

新しい現実に向き合うことも大切ですが、まずは、ゆっくり喪の作業がこなせるように、次第に悲しみや苦しみといった感情を受け止められるようにお手伝いをさせていただきます。